Context 〜響き合う あの日の物語〜|ダンスと朗読のコラボレーションレポート
2025年11月2日(日)、秋山孝ポスター美術館 長岡(APM)を舞台に、ベリーダンス・バラタナティヤム・朗読が交わる公演「Context」 が開催されました。
背景も成り立ちも異なる三つの表現が、美術館という空間で重なり合い、ひとつの時間を立ち上げたこの公演は、当館のレンタルスペースを活用した市民による企画です。
長岡市を拠点に活動する三名の女性が、「いまの自分たちだからこそできる表現」を模索し、形にしました。
この記事では、当日の様子と出演者の言葉を通して、この場所だから生まれた「出会いと交差」のひとときをお伝えします。
三つの表現の重なり
ベリーダンス、バラタナティヤム、朗読。
それぞれ異なる文化的背景と歴史をもつ三つの表現が、今回の公演ではひとつの空間に重なり合いました。
中東にルーツをもつしなやかな身体表現、南インドの寺院舞踊として発展してきたリズムと身振り、そして俳優の声による朗読。
当日のステージでは、朗読者の熱のこもった語りから始まり、異なる舞踊が情景を交互に描き出す、重層的な構成で展開されました。その重なり方は、公演タイトルである「Context」を体感的に示すものでもありました。

当日は市外からの来場者や、「APMを今回初めて知った」という来場者の姿も多く見られ、美術館が人と表現をつなぐ新たな入口となっていたこともうかがえます。
出演者の紹介

早川美紗子|ベリーダンス
2007年よりベリーダンスを始め、県内外の舞台やイベントで活躍。
音楽性と身体表現の本質を見つめ、新たな表現を探求し続けている。
新潟市出身、長岡市在住。

羽倉美和|バラタナティヤム
2001年にバラタナティヤムを始め、国内外の公演に多数出演。
静岡出身。現在は長岡を拠点に活動し、表現の可能性を広げている。

亀山実里|朗読・劇団ポイニクス
2025年1月より劇団ポイニクスに所属。
会社員として働きながら、長岡を拠点に演劇活動にも積極的に取り組んでいる。
なぜこの公演は生まれたのか
—— 3つの表現が出会うまで
公演の背景には、出演者それぞれの日常と時間の積み重ねがありました。
ベリーダンスの早川美紗子さんと、バラタナティヤムの羽倉美和さんは、子育てと表現活動を行き来する日々のなかで、「いつか一緒に何かできたら」という想いを長く温めてきたといいます。

早川:「ダンスと子育てという共通項でつながった縁を、なにかの形として、二人で一緒に作り上げたいという想いがありました。」
羽倉:「子育ての状況が少し落ち着き、思い描いていた規模のスペースを借りられるタイミングが重なりました。」
踊りの準備を進めるなかで、出演者のあいだでは、身体表現だけでは扱いきれない感情やテーマについても話題に上るようになりました。
早川:「長くダンスを続けるなかで、表現しきれないものが自分の中に溜まっていき、詩を書くことが習慣になっていました。今回、それを形にしてみたいと思い、相談しました。」
—— 「それぞれの物語が交差するひととき」という言葉に込めた想いとは?
今回の公演で掲げたテーマについて、早川さんは次のように話します。
早川:「市外・県外からの移住者である美和さんと私は、お互いのダンス、仕事、そして家庭の話をすればするほど、それぞれの物語を感じます。
いまという接点で偶然友人として過ごしていることの重みを感じ、その感覚を、ダンスを通して共有できたら素敵だなと思いました。」
今回の公演で扱いたかったテーマは、視覚的な動きだけでは伝えきれない側面を含んでいました。
そこで、詩や物語を介した朗読という表現が加わり、三つの表現が重なり合う構成が、少しずつ形づくられていきます。
羽倉:「今回のテーマは、言葉の助けがないと表現しにくいものだったので、朗読を通して表現してもらいました。」
朗読を担う読み手についても、「自分の言葉や想いを乗せたいと思える相手」という視点から亀山実里さんが選ばれ、ダンスとは異なるアプローチで、公演全体を支える存在となりました。

異なる表現がステージで交差する
—— ダンスと朗読が感じた手応え
実際に三つの表現を組み合わせてみて、出演者たちはどのような手応えを感じたのでしょうか。
羽倉:「違うジャンルの世界を知ることで、自分にはなかった発想が生まれます。
同じ目的に向かって経験や知恵を持ち寄りながら創り上げていく過程そのものが、今回のコラボレーションの魅力でした。」
亀山:「観客がとても集中して見ているのを感じました。
あの距離だからこそ生まれる空気感があったと思います。」
異なる表現者たちが高め合いながら交差し、同じ時間を共有していく――
そんな関係性が自然と伝わってきます。

美術館という場所がつくる、距離の近い時間
秋山孝ポスター美術館 長岡では、ダンス公演そのものが初めての試みでした。
展示室の照明や音の響き、見せ方ひとつで、空間の印象が大きく変わることを、APMスタッフにとっても実感できる機会となりました。
ポスターが壁一面に並ぶいつもの展示室は、持ち込まれたスポットライトと音響によって、
その日だけのステージへとみるみる姿を変えていきます。
事前の打ち合わせを重ねながら、「この場所でどう見せるか」を一緒に探っていった過程も印象的でした。

——美術館での公演はいかがでしたか?
羽倉:「秋山孝さんの作品が持つエネルギーに、背中を押されているような感覚もありました。
お客様からは、楽しい雰囲気のポスターと踊り、朗読の組み合わせに意外性があって面白かった、という声もいただきました。」
早川:「ダンスだけでなく、朗読や美術といった異なる表現に関わる人たちと、互いにインスピレーションを与え合う輪のような関係が好きです。
美術に関心のある方にも、情報が届きやすかったのではないかと思います。」
——観客との距離や音響はいかがでしたか?
羽倉:「お互いの息遣いも感じる距離だったので、お客様と対話しているような感覚をより強く感じました。
音の反響が大きく、ステージや客席の配置など設営には難しさもありましたが、近距離ならではの臨場感を味わってもらえていたらうれしいです。」
早川:「大きなステージでは使用しにくいアコースティックな音源を使用しましたが、音が響いてとても綺麗でした。普段とは違うパフォーマンスを見ていただけたのではないかと思います。」

——今日のステージで心に残った瞬間は?
羽倉:「エンディングの挨拶の時間です。皆で同じ時間と空間を共有してきたことを、あらためて感じられる瞬間でした。」
表現とともに生きること
— あなたにとって「踊り(朗読)」とは、どんな存在ですか?
ベリーダンス/早川:「自分の内部に抱えているものをなんとか扱うために必要なものです。この先も、人生にそっと寄り添ってくれる存在です。」
朗読/亀山:「やらずにはいられないものです。離れる時期があっても、気づくとまた芝居をしたいと思っている自分がいます。今後も程よい距離感で向き合っていきたいです。」
バラタナティヤム/羽倉:「日々の中で、いつも一緒にあるものです。困難なことも喜びに変えてくれる存在だと思います。」
舞台に立った3人にとって、今回の公演は決して「当たり前」の機会ではありませんでした。
仕事や子育てといった忙しない日常の中で、情熱を絶やさず「いまの自分たちだからこそ見える景色」を形にする。そんな切実な一期一会の挑戦でもありました。
「今回が最後かもしれないという想いで挑んだ」という言葉に宿る、今この瞬間にすべてを懸ける純粋な熱量。
その想いがこの場所で重なり、「Context」として立ち上がったとき、客席には大きな拍手とともに、温かな感動が広がっていました。
あなたも、美術館で表現してみませんか?
旧機那サフラン酒製造本舗や秋山孝ポスター美術館 長岡では、
フリースペースや展示室を表現の場としてご利用いただけます。


ダンスや展示、ミニコンサートなど、いろんな使い方が、少しずつ生まれています。
「こんなことできるかな?」という段階でも、お気軽にご相談いただければ嬉しいです。
フツフツと喜びが発酵する交流やにぎわいを生み出す空間として、
この場所が、だれかにとってふと何かを始めるきっかけになれたらと思っています。
この場所から、文化のある日常へ
秋山孝ポスター美術館 長岡や摂田屋・宮内エリアでは、
展示や音楽、さまざまな表現が静かに続いています。
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