会場の熱気をつくった松田社長

展示準備から会期中まで、松田社長の存在感は圧倒的でした。とにかくポジティブで、会場の空気を一瞬で明るくするパワーをお持ちです。
スタッフからも「お話しているとこちらも気持ちが明るくなります。『OK!』とおっしゃる即断力や、気配り、懐の大きさに社長力を感じました」と語られるほど。

松田保夫社長と、あえて『松田商展』と表記された初代看板
松田保夫社長と初代看板。「松田商展」と記されており、その表記も当時のまま残されています。

そして、会場では突然の「手品ショー」も。
展示室から歓声が上がり、見に行ってみると、松田社長がトランプマジックを披露していました。

手品を披露する松田社長
手品を披露する松田社長(提供: 新稲ずなさん)。

本当に仕掛けがわからなくて……「一瞬で終わって、なんで?」となったスタッフもいました。

生きている展示、増え続けた看板たち

今回の展示は、まるで「生きている」ようでした。準備段階では6枚だった看板が、会期中に次々と追加され、最終的には10点に。
作品リストも展示構成も変化を続け、会場そのものが成長していくようでした。

追加されるたびにリストを作り直すことになりましたが、その変化を追いかけるのがむしろわくわくする体験に。展示をより面白くしてくれたのは、こうした「予定外の展開」でした。

展示室中央に設置したライブペイントスペース。各世代の看板が集結
松田商展時代の犬が描かれてないものや、初代絵師から三代目候補までの看板が集結。中央はライブペイントスペース。
たった3か月しか設置されなかった七代目の松ペ看板
たった3か月しか設置されなかった七代目の松ペ看板。(どんな服装でしょうか!?)
左: 淳一さんのミニ看板 / 右: プリントシール版の看板(コラージュ)
「次の後継者候補」のミニ看板が登場。初代絵師・近藤忠男さんの長男・淳一さんが手がけたもの。作品には「まさかの次なる後継者……!?」と添えられた。
手描き看板の後継者不足という課題もあるなか、試験的に制作されたプリントシール版の看板も展示。
美術館エントランスの顔出し看板
美術館エントランスの顔出し看板。

夏休み期間だったこともあり、親子連れが顔出し看板で写真を撮っていく光景が毎日のように見られました。
展示とともに過ごしたあの熱気は、まさに忘れられないものになりました。

二代目絵師・青柳謹一さんのライブペイント

会場の中央で行われたのは、二代目看板絵師・青柳謹一さんによるライブペイント。
制作に向き合う姿はまさに職人そのもので、凛とした雰囲気に会場全体が引き込まれていきました。

ライブペイントを行う青柳謹一さん
ライブペイントを行う青柳謹一さん。

完成した作品はその場で購入希望者が続出し、描き上がった瞬間には自然と拍手が!
せっせと筆を走らせる青柳さんの姿はどこか神々しく、「この作品ができるまで待ちたい」とその場にとどまる人の姿も。

ビニールシートや道具が置かれたライブペイントスペースの設え
たくさんのミニ看板が生み出されたライブペイントスペース。
看板と青柳謹一さん
看板と青柳謹一さん。

青柳さんは制作の合間には気さくに写真撮影に応じたり、お客様とのコミュニケーションも大切にされていました。

左: 看板販売の告知を投稿したInstagram画面 / 右: ミニ看板制作体験を呼びかけた手描きの張り紙(コラージュ)
左: 看板販売の告知を投稿したInstagram画面。右: ミニ看板制作体験を呼びかけた手描きの張り紙。

思いがけない展開もこのイベントならでは。
会期中には、急遽ミニ看板の販売や制作体験も行われました。インスタや会場入り口での告知をきっかけに多くの人が集まり、突然の展開にスタッフも来場者も一緒になって盛り上がりました。

松ペクリームソーダ誕生秘話

会期中、APM cafeに登場したコラボメニュー。その名は「APMのクリームソーダ 松ペエディション」!!
ビーグル、チワワ、ヨークシャテリアの三連星をイメージした3色のソーダは、愛らしい見た目で写真を撮る人が続出し、SNSでも話題を呼びました。

実はこの企画、スタッフ同士の何気ない会話から生まれたもの。「コラボカフェ、松田ペットさんがOKならやってみよう!」――そんな一言がきっかけでした。

左: スタッフ手作りのメニュー表(『健康なくして叶う夢なし』の文言も) / 右: 三連星をイメージしたカラフルな松ペクリームソーダ(コラージュ)
左) スタッフ手作りのメニュー表。「健康なくして叶う夢なし」の文言も健在。
右) 三連星をイメージしたカラフルなソーダ。テイクアウト対応もうれしいポイント。

想定を大きく超える注文数に、午後には完売となる日も。「可愛い!」「美味しい!」という声とともに、多くの人が笑顔を見せ、スタッフにとっても忘れられない企画となりました。

全国から集まった松ペファンとSNS反響

今回の展覧会はSNSをきっかけに全国的な注目を集めました。
東京、名古屋、沖縄など遠方からわざわざ訪れてくださる方もいて、受付で「このために来ました」と話してくださるお客様に出会うたびに、スタッフ一同、驚きと感激でいっぱいでした。

松ペグッズに身を包んだ“正装”の来場者(提供: 新稲ずなさん)
松ペグッズに身を包んだ“正装”でお越しくださったお客様(提供: 新稲ずなさん)。

SNS上でも「やっと本物を見られた!」「懐かしいのに新しい感覚」「推し活みたいで楽しい」といった声が寄せられ、スタッフは毎日のようにハッシュタグをチェック。
会場にいない人まで一緒に盛り上がっているようで、とても心強く感じました。

地域とつながる展覧会

「例の看板展」は、美術館の中だけで完結しませんでした。近隣のお店とも自然につながり、展示とまちが一体となって盛り上がる姿が印象的でした。

看板展余波はここにも及びました!

昭和5年に建てられた蔵をリノベーションした「LOCAL IDENTITY STORE -LIS摂田屋」。1階は地域のお酒や食品などの醸造品、2階は本やクラフト作品を扱うスペースとして運営されています。
2階の半分はギャラリーとなり、月替わり・週替わりで展示販売が行われるなど、まちの文化発信拠点のひとつです。

LOCAL IDENTITY STORE -LIS摂田屋の外観
LOCAL IDENTITY STORE -LIS摂田屋。

その2階で営業している「ブックスはせがわ」では、『例の看板フォトグラフコレクション』の冊子や、松田ペット看板をあしらった「三角フラスコ」のアイスコーヒーを販売。
看板展の会期中には、冊子は50冊以上、アイスコーヒーは100本近く売れるなど大きな反響がありました。

左: 『例の看板フォトグラフコレクション』冊子 / 右: 松田ペット看板入り『三角フラスコ』アイスコーヒー(コラージュ)
左: 『例の看板フォトグラフコレクション』の冊子。右: 松田ペット看板をあしらった「三角フラスコ」のアイスコーヒー。

来店した方のなかには、市外や県外から訪れた人も多く、松ペTシャツやトートバッグを身につけている方の姿も。「松ペ看板が長岡の観光名所、アイコンになってきているのを実感しました」と店主の長谷川さんも話していました。

LIS摂田屋1階で商品を手に取る来店客
LIS摂田屋1階。地域の食品やお酒などの醸造品を手に取るお客様。


地域のスイーツでサプライズも。

会期中、ライブペインティングを見事にやりきった絵師・青柳さんへ、美術館スタッフからのサプライズ。
摂田屋の「FUKU菓子店」さんに特別にお願いして作っていただいたのは――松田ペット三連星のアイシングクッキー!

松ペのアイシングクッキーを手にして笑顔の青柳さん(提供: 新稲ずなさん)
クッキーを手にした青柳さん(提供: 新稲ずなさん)。
松ペのアイシングクッキーのアップ。精巧な仕上がり
食べるのがもったいないほど、すばらしい出来栄えのクッキー。

FUKU菓子店は、とってもかわいいアイシングクッキーをはじめ、焼き菓子やケーキ、ランチも楽しめる人気のお店。観光で訪れた人もふらりと立ち寄りやすく、今回の看板展でもちょっとした話題を添えてくれました。


ニューフェイスのお店も彩りを加えました!

築94年の茶舗をリノベーションして誕生した「chahho。」。秋山孝ポスター美術館 長岡のすぐ近くにあり、「例の看板展」と同じ日にプレオープンを迎えました。

chahho。の店舗外観
店舗外観(chahho。)。

ストリート沿いに立つ店舗は、看板展でにぎわう人の流れとも自然につながり、地域の新しいチャレンジの場。シェアキッチンでいろいろなランチメニューを楽しんだり、ふらっと立ち寄っておいしいお茶で一息つけるお店です。

看板展開催中は猛暑だったので、ここで冷たいドリンクで一休みするお客様も見られました。店内は手作り感のある温かい雰囲気で、奥には落ち着けるお庭もあり、宮内〜摂田屋のまち歩きの途中休憩にぴったりの癒やし空間です。

おわりに|夢の続きは世界へ!?

美術館での展示は“夢の第一歩”。この先は……世界デビュー!? そんな想像までしたくなるくらい、「例の看板展」は不思議な熱気に包まれていました。

展示は幕を閉じましたが、松田ペットの看板をめぐる物語はこれからも続いていきます。
次はどんな場所で、どんな人たちの記憶に刻まれるのでしょうか。

会期中にお越しくださった皆さま、そして応援してくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。

写真提供: 新稲ずなさん、ブックスはせがわさん